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第165話 夫の腕の中で、私は幸せな気持ちで目を閉じた

last update Petsa ng paglalathala: 2026-10-09 19:35:11

「公園だ。三人で行くと、君が言った」

 結菜が初めて歩いた翌朝、目を覚ますと、隣に朔弥さんはいなかった。

 寝室の外から、小さな足音が聞こえる。

 一歩。止まる。また一歩。

 扉を開けると、結菜が廊下の向こうから歩いてきた。

 そのすぐ後ろを、朔弥さんが両腕を広げたままついてくる。娘が足を止めるたび、彼まで止まるので、私は扉に手をかけたまま笑ってしまった。

「おはよう、結菜」

 しゃがんで呼ぶと、結菜は私へ向かって両手を伸ばした。

 最後の一歩で身体ごと飛び込んでくる。抱き止めると、温かい頬が私の首へくっついた。

 私は娘の背を撫で、朔弥さんを見上げた。

「朝から歩かせたんですか」

「勝手に歩いた。俺は転ばないように見ていただけだ」

「その格好で?」

 髪には寝癖がついている。寝間着の裾には、結菜が朝食でこぼしたらしいヨーグルトがついていた。

 会社の誰かが見たら、驚くだろう。私は、この顔を毎朝見られる。

 朔弥さんが自分の裾を見て、それから私を見た。

「笑うな」

「笑っていません」

「笑っている」

 結菜まで、私の腕の中で声を上げて笑った。

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  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第161話 それ、あなたの仕事用の鞄です

     出産予定日まであと数日の明け方、新居の寝室で陣痛を告げると、朔弥さんは跳ね起き、枕元の端末と時計を同時に見た。 「間隔は」 「まだ長いです」 「病院へ連絡する」  準備していた鞄を取りに行き、違う鞄を持って戻ってくる。 「それ、あなたの仕事用です」  朔弥さんは鞄を見た。それから私を見て、もう一度、鞄を見た。  普段なら、私が指摘するより先に気づくだろう。仕事で何が起きても、私が慌てていても、いつも私より冷静な人なのに。  朔弥さんは無言で引き返した。  その背中を見ていたら、こんな時なのに、可愛いと思ってしまった。  あの朔弥さんが、私のことで、持ってきた鞄もわからなくなるほど慌てている。  安心させてあげたい。それなのに、嬉しいと思ってしまう自分もいた。  口元が緩んだところで、また下腹が痛んだ。私は腹部を押さえ、膝の上へ顔を伏せた。  戻ってきた朔弥さんが鞄を下ろし、すぐに背を支える。 「真尋」 「大丈夫です。まだ……話せます」  話せると言ったあと、言葉が続かなかった。吐く息に呻き声が混じりそうで、唇を結ぶ。  朔弥さんの腕を掴んだまま、私は目を閉じた。痛みが引くまで、腰に添えられた手を頼りに息を吐く。  ようやく顔を上げると、彼は私の顔を覗き込んでいた。さっきより眉間の皺が深い。  可愛いと思ったことは、今は黙っておこう。  落ち着いてから話したら、きっと困った顔をする。結菜が大きくなったら、この朝のことを教えてあげたい。  朔弥さんが私の肩へ手を回した。 「もう出よう」  私はその腕を握り直した。 「……病院へ電話してからです」  あれだけ準備していた人へ、私が順番を教えている。頷いて端末を取る横顔が愛しくて、痛みの合間に、もう一度笑ってしまった。  連絡を終え、上着を羽織ったところで、足元へ温かいものが流れた。  私が動きを止めると、朔弥さんの顔色が変わった。  鞄を持った朔弥さんを呼び止める。 「破水しました」 「すぐに病院へ行く」  朔弥さんが私を支えた。  今度こそ正しい鞄を持ち、車まで付き添ってくれる。運転手へ病院の名を告げると、私と一緒に後部座席へ乗り込んだ。  車が走り出してからも、何度も私の名前を呼ぶ。 「真尋」 「……聞こえています」  返事をすると、朔弥さんが

  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第4話 もう、都合のいい妻ではいられない

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  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第6話 悪意でなければいいらしい

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     ダイニングルームに入った瞬間、足が止まった。  義母の冴子、その隣には祖母の千鶴、向かいには朔弥さん。そして、夜の席にいることがあまりに自然すぎる一条澄麗。  胸の奥で脈がひとつ大きく跳ねた。嫌な予感だけが、遅れてはっきり輪郭を持つ。  澄麗は淡いグレージュのセットアップに細いパールを合わせて、まるで最初からこの家の夜の食卓に馴染むために育ってきたみたいな顔をしている。 「こんばんは、真尋さん」  澄麗がやわらかく微笑んだ。 「ごめんなさい、勝手にお邪魔してしまって。御門家とは家族同然のお付き合いですので、つい昔の癖で入ってしまいましたの」  私は一拍遅れて会釈した。  もう

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